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長寿命LEDモジュール

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長寿命LEDモジュールとは?

長寿命LEDモジュールとは、LED素子とその駆動・放熱・光学・基板などの周辺要素を一体化して構成し、特に耐久性と光束維持率を高めるよう設計されたLED光源モジュールの総称です。単にLEDチップの寿命だけでなく、モジュール全体(LEDチップ、基板、熱設計、ドライバ、封止材、光学部材、実装品質)が長期間にわたり安定して動作することを目的としています。医療・産業・街路灯・商業施設・屋外設備・高信頼用途など、交換コストや保守負荷が問題となる環境で採用されます。

何が「長寿命」を決めるか(概念整理)

光束維持率(L値)

代表的にはL70(初期光束の70%に低下するまでの稼働時間)やL90などの指標で寿命が表現される。L値が大きいほど「長寿命」と評価される。

故障率・MTBF

単純に光が落ちるだけでなく、モジュールやドライバの故障頻度(MTBF)が低いことも長寿命の重要な側面。

劣化速度の遅さ

温度や電流、環境ストレスに対する光学・電気特性の変化が小さいこと。

運用上の信頼性

温度サイクル、振動、湿潤、塩害、UV曝露など現場環境に耐えうる設計と材料選定。

保守性と交換周期

現場交換コストを含めたライフサイクルで有利であること。

これらは単独要素ではなく、放熱・駆動・材料・実装品質・検査工程の総合力で実現されます。

構成要素別の長寿命化手段

LEDチップとパッケージ

  • • 高品質チップ選定(低ドリフト、低欠陥、トラクション管理済み)。
  • • チップの駆動電流を適切に抑える(定格以下での運用、ドライブ余裕)。
  • • カラースタビリティの優れたパッケージ(色シフト抑制)。

基板(MCPCB/セラミック)

  • • 熱伝導率の高い基板採用(銅ベースMCPCB、アルミ基板、セラミック基板)。
  • • 基板とヒートシンクの熱抵抗を低減する実装(サーマルインターフェース材料、はんだ・導熱接着)。

放熱設計

  • • ヒートシンク形状最適化(フィン、放熱面積確保)。
  • • 封止・筐体からの熱経路確保(対流・伝導の両面で設計)。
  • • 動作温度を下げることで光劣化とドライバ寿命を延ばす。

ドライバ(電源)

  • • 高信頼の定電流ドライバ採用(過電圧・過熱保護、サージ耐性)。
  • • 電気的ノイズ低減と効率改善(低発熱で長寿命)。
  • • 過渡応答や電源品質が悪い現場向けの保護回路。

光学/封止材

  • • 黄変・劣化しにくい封止材料(高耐候ポリマー、シリコーン)やガラス封止。
  • • 紫外線や高温に強いLEDレンズ・拡散材の選定。
  • • 光学設計で無理な高輝度駆動を避ける(局所加熱の抑制)。

実装品質と検査

  • • リフロー・はんだ接合条件の最適化、応力低減。
  • • 目視・光学・電気的検査(BA、温度走査、加速ストレス試験)。
  • • トレーサビリティ管理(ロット、測定履歴、ファーム版)。

長寿命は部材ごとの最適化だけでなく、工程管理と品質試験に依存します。

設計指針(実務向け)

  • • 目標L値を明確化する(例:L70@50,000h、L80@60,000h等)。用途に応じてL値や故障定義を決める。
  • • 動作条件の余裕を持たせる(最大定格で運用せず、ジャンクション温度や電流にマージンを取る)。
  • • 熱解析(CFD)と光線解析を同時に行い、放熱設計が光学性能に与える影響を評価する。
  • • ドライバとLEDの熱的相互作用(駆動ロス→発熱→チップ劣化)を見える化する。
  • • 環境ストレス(高温多湿、塩害、UV、粉塵、振動)に対する保護(シーリング、IP等級、コーティング)を規定する。
  • • モジュール単位での交換性・保守性を考慮した機械設計(取り替えやすいコネクタ、工具不要設計)。

これらを製品仕様書と検証プロトコルに落とし込んで運用します。

試験・検証(信頼性評価)

  • • 加速寿命試験(ALT):高温加速、温湿度サイクル、電気過負荷で劣化傾向を評価。
  • • 光束維持測定:定常運転での光束測定(数千〜数万時間の長期耐久測定、またはALTによる推定)。
  • • 熱サイクル試験:熱膨張差によるはんだクラックや接触抵抗の変化を評価。
  • • 振動・衝撃試験:屋外やモバイル用途での機械的耐久性確認。
  • • 耐候性・UV曝露試験:封止材やレンズの黄変・劣化を評価。
  • • 電気的ストレス試験:サージ、過電圧、短絡、フリッカ評価。
  • • EMC試験:ドライバがEMIを出さないこと、周囲機器への影響確認。

実機評価と加速試験の結果を組み合わせて寿命設計を検証します。

運用と保守設計(ライフサイクル視点)

  • • 予兆保守:温度・電流・光束ログを収集し劣化の兆候を検出、交換計画を立てる。
  • • 交換戦略:モジュール単位交換か器具丸ごとか、交換頻度と現場コストを基に決定。
  • • 長期在庫管理:同一スペックの予備在庫管理、部品のロット差異に備えた互換仕様の用意。
  • • 保証とSLA:光束維持の保証、故障時の対応時間、アップタイム目標を契約に明示。
  • • 設置環境管理:清掃、結露対策、通気確保、遮熱対策など運用ルールを明確化する。

長寿命は保守体制との整合が取れて初めて実コスト削減につながります。

用途別の重要ポイント

  • • 街路灯・トンネル照明:屋外での高耐候性、耐塩害、広域放熱設計、長期保証が必須。
  • • 産業施設・倉庫:振動・衝撃、粉塵対策、長時間運転での光束維持と予兆保守。
  • • 病院・医療機器:高演色・低フリッカ、冗長構成、厳格な電気安全とトレーサビリティ。
  • • 商業施設:色安定性と均一性、夜間運転での省エネプロファイル、交換の容易さ。
  • • 屋内産業・研究用途:色精度(TLCI/CRI)維持、温度管理、ドライバの精度。
  • • 交通信号・表示:信頼性最優先、冗長電源や監視機構の組込み。

用途に合わせた耐環境設計と保証条件の設定が必要です。

メーカー選定・調達上のチェックポイント

  • • LEDチップメーカーの信頼性実績(寿命データ、バッチ品質)。
  • • 基板材質、封止材、接合技術の仕様書確認。
  • • 熱解析・ALT試験結果の提示、試験条件の妥当性。
  • • ドライバの効率・保護機能・EMC性能・寿命。
  • • 保証条件(光束維持、故障率、交換対応)とSLA。
  • • トレーサビリティ(ロット、測定データの提供可否)。
  • • 実機でのPoC評価(現地環境での温度・照度・動作ログ)。

長期運用を見据えた部材供給の継続性とエコシステム(交換部品の供給可否)も重要です。

コストとLCC(ライフサイクルコスト)の考え方

  • • 初期投資は高めでも、交換工数・停灯コスト・在庫コスト削減でLCCが下がる可能性が高い。
  • • LCC評価では、機器価格、設置コスト、交換・保守コスト、故障時のダウンタイムコスト、エネルギー消費を全期間で算出する。
  • • 保証期間や保守契約を含めたトータルコストモデルを採用し、投資回収とリスクを定量化する。

長寿命の価値は現場固有のメンテコストとダウンタイム価値に左右されるため、用途別の感度分析が必要です。

よくある誤解と実務的注意点

  • • 「LED素子が長寿命=モジュール全体が長寿命」ではない:ドライバ故障や封止材劣化、接点不良が寿命を左右する。
  • • 単純に駆動電流を下げればよいわけではない:低電流化が光束効率や色再現に影響するため、設計のトレードオフ評価が必要。
  • • L値表記の比較は試験条件(温度、電流、光束測定方法)を揃えて行うべき:条件差で大きく異なる。
  • • 実環境(高温、振動、ほこり、化学物質)での劣化は想定より速いことがある:現場PoCが有効。

これらを勘案して、スペックの裏にある試験条件と実機データを要求してください。

将来動向

  • • チップ効率(lm/W)の継続的向上と低ドリフト化により、同出力でのジャンクション温度低減が可能に。
  • • ドライバ效率と小型化の進展により筐体内の放熱余裕が増し、寿命向上が期待される。
  • • 封止材・レンズ材料の高耐候化(シリコーン改良、無黄変材料)により屋外寿命が延伸。
  • • IoTによる予兆保守と運用最適化(稼働ログから交換時期を動的に決定)で実利用寿命の最大化。
  • • リサイクル性・資源循環を考慮した設計(モジュールの分解容易化、材料選定)の強化。

技術と運用の両面での改善により、長寿命LEDモジュールはさらに価値を高めていきます。

まとめ(実務的結論)

長寿命LEDモジュールは、光源チップだけでなく放熱設計、駆動回路、封止材、実装品質、環境対策、検査工程を含めたシステム設計によって実現されます。導入に際しては目的に応じたL値や故障定義を明確にし、熱解析・加速寿命試験・現地PoCによる実測で仕様を裏付けることが必須です。初期コストだけで判断せず、LCCと運用性(交換工数、保守体制、部材供給)を比較することで、本当に「長寿命」が価値をもたらすかを評価してください。