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パルス調光

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OUTLINE

パルス調光とは?

パルス調光とは、パルス幅変調 Pulse Width Modulation を用いて照明の明るさを制御する方式の総称です。一定周波数のパルス波におけるON時間とOFF時間の比率(デューティ比)を変えることで、負荷に供給される平均電力を変化させ、視覚的に明るさを調節します。LEDから従来の白熱/蛍光まで用途に応じた実装があり、低損失・高応答・高精度といった特長がある一方でフリッカ、電磁ノイズ、輝度再現性といった設計上の留意点が存在します。

基本原理と波形の要点

周波数とデューティ比

周波数は通常数百Hzから数十kHzで用いられ、デューティ比がON時間比を決定する。デューティ比 100% が最大輝度、0% が消灯に相当する。

平均出力制御

人間の目は高速で点滅する光を時間平均で知覚するため、高周波であればON/OFFのちらつきは感じにくく平均輝度で明るさを感じる。

電気的実装パターン

LED は直流電流での駆動が基本だが、PWM により定電流またはスイッチング素子で高速にON/OFFして実質的に平均電流を制御する。白熱や蛍光器具では位相制御や0–10V等と組み合わせる場合がある。

メリット

高効率・低損失

スイッチング方式により電力変換損失が小さく、熱低減と高効率を実現しやすい。

高応答性と高精度

デューティ比の細かな制御で広い調光レンジと高速応答が可能。演出用途や映像同期にも適合。

色再現への影響が小さい

高周波化すれば平均電流が一定のため色座標の変動が抑えられやすい。

 電子制御との親和性が高い

マイコン制御やデジタルネットワークとの連携が容易で、シーン管理やフィードバック制御が実装しやすい。

デメリットと設計上の注意点

フリッカ(ちらつき)リスク

周波数が低い、あるいはパルス波に周期性があると、視認性低下、頭痛、映像収録時の縞模様の発生などが起きる。周波数とデューティ変動の設計が必須。

EMC/ノイズ問題

高速スイッチングに起因する高周波ノイズが発生しやすく、周辺機器や通信に干渉する可能性がある。対策としてフィルタ、シールド、スロープ制御が必要。

ドライバと負荷の相性

PWM 信号を受けるドライバ、LED モジュール、電源の組合せによっては期待通りの輝度制御にならない、あるいは過渡応答で誤動作することがある。

熱的・寿命影響の評価

平均電力は同じでもパルス波形が熱サイクルを生む場合、封止材や接合部に影響が出ることがある。実機試験が必要。

規格適合と人体影響

視覚的フリッカに関する規格(基準周波数やフリッカ指標)や医療・教育施設での制約に注意する必要がある。

周波数設計目安とフリッカ管理

一般照明用途

1 kHz~20 kHz が実用帯域。人間の不快感を避けるため周波数はできるだけ高めに設計する。

映像撮影・カメラ同期

カメラのフレームレート/シャッタースピードとの関係で縞模様が出ないよう、周波数設計や同期方式を採る。

医療・精密作業環境

フリッカ指標やフリッカ周波数基準に従い、低周波成分を排し、フリッカ率やPstLM指標を規格値以内に抑える。

 可変デューティ挙動のランダム化

人体影響低減と副作用対策として、微小な周期揺らぎ(デューティスプレッディング)を入れて周期的フリッカを分散させることがある。

ハードウェア実装パターン

マイコン/PWMコントローラ方式

マイコンでデューティ比を生成しMOSFETやトランジスタで駆動する。ソフト制御でシーンやカーブを容易に実装できる。

ハードPWMドライバ方式

専用PWMドライバICで高精度かつ低ジッタのパルスを生成。高速応答と安定性が求められる場合に採用。

LC 平滑化とPWM の併用

PWMを直結する代わりにLCフィルタで平滑化して定電圧に近づけ、ノイズとフリッカを低減するアプローチ。

電源側 PFC や共振制御との整合

高効率電源と組合せる際は突入電流やサージ耐性、力率・THD への影響を確認する。

LED ドライバ内蔵 PWM

一部ドライバはPWM入力を受けて内部で最適な電流制御を行うため、外部回路を簡素化できる。

制御アルゴリズムとUX

リニア/対数カーブ制御

人間の明るさ知覚に合わせたリニアまたは対数のデューティ→明るさ変換を実装する。

シーン平滑化とフェード制御

瞬時の変化を避けるため、フェードタイムやイージング曲線を用いて自然な切替を行う。

センサフィードバック制御

照度センサの値を参照してデューティ比を閉ループで調整し、昼光や経時変化に自動追従させる。

複数チャネル同期とカラー補正

Tunable White や RGB ではチャネル間のデューティ同期や温度ドリフト補正が必要。色ズレを抑えるためにPIDや補正テーブルを用いる。

試験・評価項目

フリッカ評価

PstLM、flicker percentage、周波数スペクトルを測定し基準適合を確認する。

応答遅延とジッタ試験

コマンド入力から輝度変化完了までの時間および周期ジッタを評価。演出同期用途で重要。

EMC試験

伝導・放射ノイズ測定とフィルタ/シールド効果の確認。通信機器への影響評価を含む。

熱サイクル・寿命試験

パルス駆動による熱ストレスを加速寿命試験で評価し、光束維持と故障モードを確認。

光学特性測定

デューティ比毎の光束、CRI、色温度変動、均斉性を測定する。低デューティ域での色変動を特に確認。

実地PoC評価

実運用環境での見え方、ユーザ受容性、撮影テスト、現場ノイズ検証を行う。

実装手順と導入フロー

  1. 1. 要件定義とKPI設定:目的(演出、作業、医療)、許容フリッカ、応答時間、同期要件を明確化。
  2. 2. プロトコル・ハード選定:PWM周波数、分解能、ドライバ種別、フィルタ要否を決定。
  3. 3. 熱・電気同時設計:放熱パス、突入電流、電源品質を解析。
  4. 4. 試作とベンチ評価:波形、フリッカ、EMC、熱挙動を実験室で確認。
  5. 5. PoCと現地評価:実際の照明配置で視感、撮影、通信干渉を検証。
  6. 6. 最適化と量産設計:ソフトのデューティカーブ、ハードのノイズ対策、筐体変更を反映。
  7. 7. 展開と運用:監視ダッシュボード、OTA、保守ルールを整備。

段階的検証を通じてフリッカ・EMC・寿命リスクを削減することが成功の鍵です。

用途別の設計ポイント

一般施設照明

周波数は高めに設定しフリッカを軽減。センサ連動で平均デューティを最適化し省エネを図る。

撮影・放送・舞台照明

カメラフレームレート同期や高周波・ジッタ低減を必須とする。DMX 等との併用設計。

医療・学校環境

フリッカ基準厳守、色安定性、サーカディアン調光の安全性評価を重点化。

交通表示・サイン

耐ノイズ性・耐環境性・応答信頼性が重要。短期変調も多用するためEMCと電源保護を強化。

産業・倉庫照明

耐振動・長寿命設計と、部分点灯での瞬時応答を両立する制御戦略を採用。

用途で優先する要件に応じて周波数・分解能・フィルタ設計を選ぶ。

トラブル事例と対策例

事例:映像撮影で縞模様が発生

対策:撮影フレームとPWM周波数を同期、周波数を非整数倍に変更、またはPWMを高周波化。

事例:無線機器の通信障害発生

対策:ノイズ源同定、フィルタ追加、配線分離、シールドケーブル採用。

事例:低デューティ領域で色温度が変化

対策:チャネル毎の補正テーブル、温度補償ループを実装。

事例:LED接合部の早期劣化

対策:熱マージン増加、デューティ制限、放熱改善、寿命試験で実運用条件を確認。

設計段階で原因と対策を見越した余裕設計を行う。

導入チェックリスト

  • • 目的と許容フリッカを明確にしているか
  • • PWM 周波数と分解能は用途に適合しているか
  • • ドライバとLEDモジュールの相性を評価済みか
  • • EMC対策(フィルタ、シールド、配線分離)を設計に組み込んだか
  • • 熱解析でジャンクション温度と放熱余裕を確認したか
  • • 映像・撮影用途ではカメラ同期と実撮影テストを行ったか
  • • フィードバック制御用のセンサ配備と閉ループロジックを用意したか
  • • OTA と運用監視、保守計画を整備したか

これらを満たしてから本展開に進むことを推奨します。

まとめ

パルス調光は効率性、精度、応答性に優れる有力な調光手法であり、特にLED時代においては標準的な制御方式です。設計では周波数・デューティ・ノイズ対策・熱管理・フリッカ評価を同時に考慮し、用途ごとの要件に応じた試験とPoCを必ず実施することが不可欠です。適切に実装すれば安全で快適、かつ演出表現力の高い照明システムを実現できます。