PWM調光
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OUTLINE
PWM調光とは?
PWM調光は Pulse Width Modulation(パルス幅変調)のことで、一定周期のパルス波におけるON時間とOFF時間の比率(デューティ比)を変えることで負荷に供給される平均電力を制御し、視覚上の明るさを変える方式です。LED照明で最も一般的に使われる調光手法の一つであり、高い効率性、応答性、制御の柔軟性を持つ一方でフリッカやEMCなど設計上の留意点が多く、実務では周波数設計、ドライバ選定、ノイズ対策、試験計画が重要になります。本稿では原理から設計実装、評価、運用上の注意点まで網羅的に解説します。
基本原理と動作概要
デューティ比(Duty)
1周期(T)におけるON時間(Ton)の比率をデューティ比 D = Ton / T で表す。D が 0% で消灯、100% で常時点灯に相当する。視認される明るさはデューティ比の時間平均で決まる。
周波数(f)
周期の逆数 f = 1 / T。周波数が高いほど人間の目にはパルスのちらつきが認識されにくくなるが、周辺回路(ドライバ・電源)の追従性、EMC、スイッチング損失の観点で制約が生まれる。
出力波形と平均電流
LEDに供給される瞬時電流はON時のピーク電流とOFF時のゼロの組合せだが、LEDの発光は時間平均電流にほぼ比例するので視覚上は連続的に見える。
PWM と他方式の比較
PWM は高効率(ほぼスイッチング損)かつ高精度。電流を連続的に落とすアナログ調光(電流制御)や位相制御(Triac)に比べて発熱が少ないが、フリッカやEMC管理が必要。
ハードウェア構成と回路設計要点
スイッチング素子
MOSFET や IGBT を用いて高速で ON/OFF を行う。選定時はオン抵抗(Rds(on))、スイッチング速度、スイッチング損、耐圧を考慮する。
ゲートドライバと死時間
MOSFET のゲート駆動は高速で行うが、過渡時のリンギングやスパイクを抑えるためゲート抵抗やスナバ回路、適切なデッドタイム設計が必要。
ドライバ構成• 直接 PWM
マイコンから直接 MOSFET を駆動して LED をスイッチする。安価で柔軟だがジッタ管理や保護回路が必要。
PWM 入力対応ドライバ
ドライバ内部が PWM 信号を受けて最適な定電流出力を行うため外付け素子を簡素化できる。
専用 PWM IC
低ジッタや高分解能を必要とする用途では専用チップを採用。
電源と PFC、突入電流対策
スイッチングが瞬間的な電流ピークを生む場合があるため突入抑制、PFC、サージ耐性が必要。配電やブレーカー容量の確認は必須。
平滑化(LC フィルタ)
必要に応じて PWM 出力を LC フィルタで平滑化しほぼ定電流に近づけることでフリッカ低減や負荷特性の改善を図る。
熱設計
スイッチング素子・ドライバの損失が熱となるため、放熱設計、筐体一体放熱、サーマルパッド等でジャンクション温度を管理する。
周波数設計・ジッタ・分解能の実務目安
一般照明
1 kHz 〜 20 kHz を採用することが多い。人の目にちらつきが生じにくく、オーディエンス用途にも耐える帯域。
映像・撮影用途
カメラのフレームレート(例 24/30/60 fps)やシャッタースピードに起因する縞模様(バンディング)を避けるため、撮影機器と同期するか非常に高い周波数を選ぶ。周波数は撮影フレームの整数倍を避ける設計も有効。
医療・教育
フリッカ敏感な環境では PstLM 等の指標に合わせた低フリッカ設計と高周波化、安定したジッタ特性が求められる。
分解能(ビット深度)
PWM の分解能はデューティ制御の細かさを決める。8〜12bit が一般的、演出や滑らかなフェードでは 12bit 以上を採用する。
ジッタ管理
周期の揺らぎ(ジッタ)は視覚フリッカや撮影問題を引き起こすため、内部クロック精度、ソフトウェア割込み遅延、共通バス干渉を設計段階で低減する。
制御ソフトウェアとフィードバック設計
明るさカーブ補正
人の明るさ知覚は対数的なので、デューティ→明るさ変換に対数やガンマ補正曲線を入れて自然なレスポンスを作る。
フェード/イージング実装
瞬時変化を避けるためのイージング関数やフェード時間を設定し、UI 操作やシーン切替の滑らかさを担保する。
閉ループ制御
照度センサを用いたフィードバックで実照度を維持する。PID 制御や適応制御で昼光補正や経時変化に対応させる。
複数チャネル補正
Tunable White や RGB 系では各チャネルのデューティ同期と温度ドリフト補正が必要。チャネル間バランスは色再現に直結する。
同期機能
多台数を同時制御する場合はマスタークロックやネットワーク同期(PPS、PTP 等)を用いてジッタを抑制する。
保護ロジック
突入電流検出、過熱検出、短絡検出でデューティ制限やシャットダウンを行い故障拡大を防ぐ。
フリッカ(ちらつき)と人体影響、評価法
フリッカ発生要因
低周波化、デューティ揺らぎ、電源ラインの変動、ジッタ、PWM 分解能不足などがフリッカをもたらす。
人体影響
一部の人は低周波フリッカで視覚的な不快感や頭痛、集中力低下が起きる場合がある。医療・教育施設では特に厳格な基準を適用するべきである。
評価指標
PstLM(短期フリッカ指標)、flicker percentage、フーリエ解析による周波数成分評価などを用いる。評価は実環境で照明・反射・視角条件下で行う。
対策
高周波化、ジッタ低減、デューティのスムージング、LC フィルタ、閉ループ制御で安定化、低周波成分の除去を組合せる。
EMC(電磁両立性)の課題と対策
発生源
高速スイッチングは伝導・放射ノイズを生む。配線のインダクタンスやパターン設計がノイズ増幅を招く。
伝導ノイズ対策
コモンモードフィルタ、差動フィルタ、LC ネットワーク、SPD(サージ保護デバイス)を実装する。入出力ラインの適切なフィルタリングとグラウンド設計が有効。
放射ノイズ対策
シールド、ケース接地、配線の短縮とルーティング、スイッチングエッジのスロープ調整で放射を抑える。
EMC 試験
製品化前に伝導妨害・放射妨害試験を行い適合を確認する。無線機器や医療機器周辺での動作保証が必要な場合は厳しい試験条件を課す。
試験・PoC(実地検証)で必須のチェック項目
- • 光学測定:デューティ毎の光束、CRI、色温度、均斉度、低輝度での色変動を測る。
- • フリッカ測定:PstLM、flicker percentage を測定し基準適合を確認。
- • 電気測定:消費電力、突入電流、待機消費、力率、THD を計測。
- • EMC 測定:伝導・放射ノイズ評価と補強の妥当性検証。
- • 熱評価:スイッチング素子・ドライバのジャンクション温度分布と長期エージングの影響を評価。
- • ユーザ受容性試験:実ユーザでの視認テスト、撮影テスト、誤作動テストを行い UX を確認。
- • 長期試験:加速寿命試験(ALT)や温湿度サイクルで信頼性を評価する。
PoC は短期の機能確認にとどめず、数週間〜数ヶ月の運用観察を含めることで季節変動・運用条件差を把握する。
用途別運用設計の留意点
オフィス・商業施設
高周波化と照度フィードバックを標準にし、昼光補正で省エネを追求する。UX を優先してフェード時間や操作性を調整する。
撮影・舞台
カメラ同期または超高周波化、低ジッタドライバを使用。DMX/時間コード同期を実装する場合が多い。
医療・教育
フリッカ基準を厳守し、色安定性やトレーサビリティ(ログ保管)を重視する。
産業用途・屋外
EMC と耐環境性、放熱、保守容易性を重視。屋外は防水・耐候材料と温度余裕を確保する。
トラブル事例と対処フロー(実務テンプレート)
事象:撮影時に縞模様が出る
確認項目:PWM 周波数、カメラフレーム率、ジッタ、同期設定。
対処:周波数変更またはカメラ同期、ジッタ源の排除、専用高周波ドライバへ切替。
事象:近隣無線機器の通信障害
確認項目:放射ノイズスペクトル、配線ルート、フィルタ未装備。
対処:フィルタ追加、シールド、配線分離、EMC 試験で問題周波数を特定して対策。
事象:低デューティ領域で色偏移が発生
確認項目:チャネル間バランス、温度、LED ドライバ応答。
対処:補正テーブル、温度補償ループ、チャネル同期調整。
事象:ドライバ過熱・寿命低下
確認項目:熱接続、ヒートシンク接触、周囲温度、デューティ上限。
対処:放熱改善、デューティ制限、保護ロジック追加。
実務的ベストプラクティスと導入勧め
- • 要件を明確に書く:応答遅延、フリッカ目標、色再現、保証条件を仕様書に明記する。
- • PoC を必須化する:現地での RF、光学、EMC、撮影、ユーザ受容性の実測を行う。
- • 分解能と周波数の両立:演出用途では高分解能(12bit 以上)と高周波のバランスを取る。
- • ジッタ低減:マスタークロックやハードウェア PWM を利用しソフトウェア割込み遅延を避ける。
- • EMC を設計段階で組込む:後からの対策はコスト高となるため PCB レイアウト、グラウンド設計、フィルタを早期に適用する。
- • 運用データで改善を回す:稼働ログを使ってデューティ上限、閾値、スケジュールを継続最適化する。
- • 安全と保守を優先:過熱保護、デグレード動作、交換容易なモジュール設計を採用する。
まとめ
PWM調光はLED時代における主要な調光手法で、高効率・高応答・高精度という強みを生かして幅広い用途で採用されています。だが設計・実装・運用にはフリッカ管理、EMC 対策、ドライバ互換性、熱管理、周波数・分解能設計といった複合的な検討が必要です。実務では要件定義と PoC を重視し、取得した実測データに基づき周波数、分解能、フィルタリング、保護ロジックを最適化することが成功の鍵です。