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KNX照明制御

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OUTLINE

KNX照明制御とは?

KNX照明制御とは、建物内の照明設備を含む様々な設備機器を統合的に制御するためのオープンな配線型フィールドバス規格「KNX」を用いた照明制御システムのことです。KNXは国際標準(EN/ISO)に準拠したホーム/ビルオートメーション向けプロトコルで、照明だけでなく空調、ブラインド、セキュリティ、マルチメディア等の機器と統合可能です。本稿では仕組み、主要機能、設計・導入の実務ポイント、PoC・試験項目、運用・保守、トラブル対策、導入事例、将来展望まで実務目線で詳しく解説します。

KNXの基本概念とアーキテクチャ

KNXの概要

KNXはバス通信により複数デバイスが相互に情報を交換する分散制御のプラットフォームです。ツイストペア(TP)、IP(KNXnet/IP)、無線(RF)、電力線通信(PL)など複数の伝送媒体をサポートします。

分散制御モデル

中央コントローラに依存せず、各デバイスが自身のロジックやグループ通信を持つため、単点障害に強く、部分故障時もローカルで機能維持が可能です。

通信オブジェクトとグループアドレス

各デバイスは「通信オブジェクト」を持ち、これをグループアドレスに割り当てることで他デバイスとデータをやり取りします。例えばスイッチの押下情報をグループアドレス経由で受けた照明デバイスが点灯する仕組みです。

ETS(Engineering Tool Software)による設計

KNX機器のプログラミングとプロジェクト設定は専用ツール ETS で行います。機器のプロパティ設定、グループアドレスの割当、ファンクションのマッピングをETS上で体系的に実装します。

KNX照明制御でできること(主要機能)

  • • 基本制御:点灯/消灯、調光(0–100%)、調色(Tunable WhiteやRGBW対応機器での色温度制御)
  • • シーン管理:複数照明状態をプリセットしてワンタッチで呼び出すシーン機能
  • • タイマー/スケジュール:時刻・曜日に応じた自動運用(営業時間制御、夜間常夜灯など)
  • • センサ連動:人感センサ・照度センサ・CO2等と連動した在室制御、昼光補正
  • • ブラインド・日射制御との連携:外光に応じたブラインド制御と連動して快適性と省エネを最適化
  • • フェイルセーフ:ローカルスイッチ優先やローカルスケジュール保持などのデグレード動作設計
  • • 監視・診断:状態モニタ(ON/OFF、エラー、消費電力等)の取得とアラート(実装により)
  • • 上位連携:BMS、BEMS、BACnet、Modbus、Web API、KNXnet/IP経由のクラウド連携

KNXと他プロトコルの違い(実務的な位置付け)

 DALIとの関係

DALIは照明器具に特化したデジタル制御規格で、器具単位の詳細制御と診断に優れます。KNXは建物全体の統合制御を得意とするため、KNXからDALIゲートウェイ経由でDALI器具を統合する構成が多く、両者を役割分担して使うのが実務上の常套手段です。

0–10Vや位相制御との違い

これらはアナログ・単方向制御が中心で双方向診断が不可欠な現場には不利です。KNXは双方向通信や複雑なロジック、他系統との統合を前提としており運用性に優れます。

IPベースとの融合

KNXnet/IPを使えばIPネットワーク上でKNXデータを扱えるため、クラウド連携やリモート管理が容易になります。ただしリアルタイム性やセキュリティ設計は別途検討が必要です。

設計・導入の実務ポイント

要件定義の粒度を上げる

応答遅延、最小点灯比、調光曲線、シーン数、SLA(保守体制)、セキュリティ要件(リモートアクセス可否)などを早期に定義する。

トポロジー設計とバス分割

ツイストペア(TP)ラインの長さ・分岐数、電源供給計画、ゾーニング(建屋単位・階単位)を明確化し、バスのキャパシティ管理を行う。

ETSでの詳細設計

ETSを用いたグループアドレス設計、通信オブジェクトのマッピング、ファームウェア互換性確認、バージョン管理を徹底する。プロジェクト文書は運用保守で必須。

センサ配置とキャリブレーション

照度・人感センサの設置高さや視野角を現地環境に合わせて決め、誤検知や死角が出ないように試験してから固定する。

フェイルセーフ設計

通信断時のローカル動作、物理スイッチのオーバーライド、非常時スイッチング動作などを明文化してメーカー仕様に反映する。

相互運用性の確認

KNXデバイスは複数ベンダーにまたがることが多いため、ETS上での事前検証と現場接続時の相互運用テストを必ず行う。

セキュリティ設計

KNXnet/IP利用時はファイアウォール、VPN、認証、アクセス制御、監査ログを設計に入れる。デバイス管理とソフトウェア更新の運用ルールを整備する。

PoC(概念実証)と試験項目

基本機能確認

点灯/消灯、調光、シーン呼び出し、スケジュール動作、物理スイッチ優先動作の検証。

通信性能試験

コマンド到達率、遅延(平均・95パーセンタイル)、バス負荷試験、複数イベント同時発生時の挙動を確認。

センサ・フィードバック評価

照度追従(昼光補正)、人感誤検知率、センサ反応時間を評価。実ユーザ評価で許容度を確認する。

相互運用性試験

異機種混在環境での動作確認、ETSプロジェクトの移行試験、ファームウェア互換性チェック。

フェイルセーフ・デグレード試験

KNXバス切断、ゲートウェイ障害、電源遮断時の期待動作(ローカルスケジュール、最低照度)を検証。

セキュリティ試験(KNXnet/IP利用時)

ポートフィルタリング、認証、アクセス制御動作、リモートからの不正アクセス試験を行う。

PoCフェーズでは現場でのユーザ感覚評価(視認性、操作性)と運用側の保守性評価(ログの見やすさ、故障箇所特定性)を同時に行うことが重要です。

運用・保守の実務設計

監視体制とアラート

稼働ログ、異常検知、温度・電流の閾値を設定し、オンコール・エスカレーションフローを運用マニュアルに明記する。

変更管理(チェンジマネジメント)

シーンやグループ変更はETS上でバージョン管理し、ステージング→カナリア→本番のリリース手順を運用に組み込む。

ファームウェア・ライフサイクル管理

デバイスのファームアップは互換性テストを行った上で段階的に展開し、ロールバック手順を用意する。

予兆保守と部材管理

ランプ寿命、ドライバ温度や電流トレンドで劣化を検出し計画交換を行う。交換部材の型番・ロット管理と在庫計画を整備する。

運用ドキュメントと教育

配線図、アドレス表、ETSプロジェクトファイル、操作マニュアルを整備し、現場運用者へ定期的な教育を行う。

トラブル事例と対処法(実務テンプレート)

事象:バス通信の不安定(断続的に動作しない)

対策:配線の接続不良確認、結線順序、終端抵抗(TPの場合)、バス電源の電圧安定性、ノイズ源(近傍の高電力機器)を調査。

事象:センサ誤動作(頻繁な誤検知)

対策:センサの取り付け位置・角度変更、感度調整、遮蔽物・反射面の有無確認、ファームウェア設定の調整。

事象:ETSプロジェクトの互換性エラー

対策:機器ファームのバージョン合わせ、ETSのバージョン整合、バックアップからのロールバック、メーカーサポートへの問い合わせ。

事象:KNXnet/IPを経由した不正アクセス疑い

対策:該当ポート遮断、VPN設定の再構築、アクセスログの解析、ネットワーク境界でのIDS/IPS検査。

事象:大規模更新で想定外の動作発生

対策:カナリア展開による段階リリース、ログ解析、差分をETSで確認して設定を修正。

いずれのトラブルも「再現手順」「暫定対処」「恒久対処」「根本原因分析」のフローでドキュメント化し、運用ナレッジとして残すことが重要です。

導入事例(ユースケース)

オフィスビル

階単位でのゾーニング、会議室シーン、デイライト連動、省エネ運用とBMS連携。フロアごとのエネルギー見える化とピークカット実行。

ホテル・商業施設

ロビーや客室の雰囲気切替、時間帯別演出、自動ブラインド連動で快適性と演出性を向上。

学校・教育施設

授業形態に応じたシーン(講義・グループワーク・試験)、休講時の自動消灯、非常時誘導灯の統合。

住宅(スマートホーム)

在宅/外出モード、帰宅時のワンキーライト、タイマー制御、セキュリティシステムとの連携。

医療・病院施設

サーカディアン照明、低フリッカ要件、厳格な運用ログとトレーサビリティ、非常時の優先照明制御。

導入時チェックリスト(実務テンプレ)

  1. 1. 要件定義:照度KPI、応答時間、シーン数、SLAを明文化
  2. 2. 機器選定:KNX認証機器か、ファーム互換性、メーカー保証を確認
  3. 3. トポロジー設計:ライン分割、電源計画、バス長制限を設計
  4. 4. ETSプロジェクト準備:グループアドレス設計、バックアップポリシーの設定
  5. 5. PoC実施:現地で通信・機能・相互運用を検証(最低2週間推奨)
  6. 6. 展開手順:カナリア→ゾーン展開→全館展開の段階計画を立案
  7. 7. 運用設計:監視ダッシュボード、アラート、オンコール体制を整備
  8. 8. 保守準備:予備部材、交換手順、運用ドキュメントを用意

将来展望と技術トレンド

  • • IoT連携の深化:KNXnet/IPとMQTT等を介したクラウド連携、AIによる占有予測やスケジューリング最適化が進む。
  • • 標準の拡張と相互運用性:KNX Allianceの仕様拡張でセンサーやデバイス種別の充実が続き、より簡易な統合が可能に。
  • • エネルギー管理との融合:BEMSと連携した需要応答、再エネの制御、ピークシフトの自動化が増加。
  • • セキュリティ強化:リモート運用増加に伴い認証・暗号化・アクセス管理機能の標準化が進む。
  • • ワイヤレス採用拡大:既設改修や部分導入向けにRFベースのKNXソリューションが現場採用を広げる。

まとめ(実務的提言)

KNX照明制御は「建物全体を一つの制御体系で最適化する」ための有力な選択肢です。成功導入のためには早期の要件定義、ETSを用いた設計の厳密化、PoCでの現地検証、IT部門との協調(特にKNXnet/IP利用時のセキュリティ)、および運用・保守体制の整備が不可欠です。DALI等の照明専用プロトコルとの役割分担(KNXは統合制御、DALIは器具制御)を明確にすると設計が安定します。