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高演色性照明(CRI90+)

(株)桜井屋灯具店では、下記事業を展開しています。
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OUTLINE

高演色性照明(CRI90+)とは?

高演色性照明(CRI90+)とは、平均演色評価数(Ra, CRI)が90以上で、物体の色を自然光に近い見え方で忠実に再現することを目指す照明設計・製品群と、それを用いたシステム運用全体を指します。色の判定精度や表現力が事業価値や安全性に直結する領域(検査・検品、印刷・グラフィック、アパレル、小売、美術館・ギャラリー、医療・診断、映像制作など)で必須とされ、単なる器具選定に留まらず、スペクトル設計、配光、測定・校正、運用保守、検収仕様までを含むエンドツーエンドの取り組みが求められます。

科学的基盤と色再現の本質

スペクトルが色を決める

光源のスペクトル(SPD: spectral power distribution)と物体の反射特性の積が見た目の色を決定する。CCT(色温度)だけではスペクトルの細部は表現できないため、高演色はSPDの質的な再現が鍵になる。

視覚モデルと評価指標の役割

人の色知覚は三刺激理論で近似されるが、実務ではRa(CRI)、個別指標(R9など)、TM‑30、ΔE(色差)などを組み合わせて評価する。指標ごとの長所短所を理解して用途に適した複数指標で判断する必要がある。

生理的・心理的側面

色の見え方は視覚的快適性、判断のしやすさ、購買意欲や作品鑑賞の質に影響する。人が「自然」と感じる再現が最終的な目標であり、数値だけでなく視感評価の併用が不可欠。

 

評価指標の詳細と実務での読み替え

CRI(Ra)

平均演色評価数。Ra90+は高演色の目安だが、Raは色票のサンプルが限定的で赤系(R9)など重要領域が評価に入り切らないケースがある。

R9(赤域評価)

人肌や食品、布地評価で特に重要。R9が低いと赤が沈みがちになるため、Ra90でもR9が低い製品は現場要件を満たさないことがある。

TM‑30(Rf / Rg / Color Vector Graphics)

色忠実度(Rf)と色飽和度の傾向(Rg)を示す。現場では色の偏りや鮮やかさの変化をより詳細に把握するのに有効。

ΔE(色差)

実測の被写体色と参照の色差を数値化する実務的指標。検査ラインなどでは合否閾値(例 ΔE ≤ 1.0〜2.0)を定めて運用する。

SPD(分光スペクトル)

最も根源的なデータ。製品選定では必ずSPDを入手して実測することが推奨される。

高演色を実現する技術要素

光源技術

  • • 高CRI専用蛍光体を用いた白色LEDや、複数蛍光体の組合せ。
  • • 多チャネルLED(複数ピーク波長チャネルの合成)により欠落波長を補完。
  • • フルスペクトルLEDや特殊チップで連続に近いSPDを目指す。

ドライバと制御

  • • 高分解能の電流制御(DACや高分解PWM)でチャンネルバランスを維持。
  • • 分光センサを用いた閉ループ補正で温度・経年変化をリアルタイム補正。

光学系と配光

  • • レンズ・リフレクタ・拡散板で被写体に対する角度依存性を設計。影の軟らかさ・ハイライトの出方を含めた視認性を確保。
  • • グレア抑制(UGR基準)を取り入れ、視感上の快適性を維持。

熱管理と信頼性設計

LEDの色味は温度や駆動電流で変化するため、放熱設計とドライバ保護、安定した電源供給が重要。

設計プロセスと要件定義(実務手順)

要件の明確化とKPI化

何を達成するか(例:製造検査でΔE ≤ 1.5、店舗ディスプレイでR9 ≥ 50、スタジオでTM‑30 Rf ≥ 95)を数値で定義。

参照光源と評価基準の決定

D65等の参照スペクトルや合格閾値、測定ポイント数・位置を明示。

機器選定とスペクトル確認

提案機器のSPDを入手し、実測でCCT、Ra、R9、TM‑30、ΔEを検証。

配置と配光設計

反射率・被写体配置・天井高を考慮した配灯設計と配光シミュレーションを実施。

PoC計画の策定

実空間での測定・ユーザ評価・長期安定性確認を盛り込む(期間:最低数週間〜数ヶ月)。

運用・保守計画の定義

校正頻度、交換周期、予備部材、SLAを契約仕様に含める。

 

PoC と試験の実務チェックリスト

光学測定(必須)

SPD(分光測定)、CCT、照度、Ra、R9、TM‑30、melanopic lux を複数ポイントで記録。

色差評価

ColorChecker や実サンプルで ΔE を算出。カメラ撮影を含めた画像ベース評価も実施。

均斉・配光評価

照度均斉比、UGR、影の硬さや方向を確認。

耐久性試験

熱サイクル、連続稼働での色シフト、光束維持率(Lm維持)、ドライバ耐久を評価。

制御・同期試験

複数器具の色整合、シーン切替時の色安定性、OTA適用後の再現性を検証。

ユーザ受容性評価

現場オペレータや鑑賞者による視感評価(まぶしさ、自然さ、判別しやすさ)を収集。

 

調達・契約時の注意点と条項例

技術仕様書に数値要件を明記する

Ra/R9/TM‑30/ΔE、CCT、公称照度、均斉比、UGR上限、保証光束維持率などを明確に。

SPDの提出と実測条項を入れる

提案時SPD提出、受入検査で実測比較、実測に不合格の場合の対応(再調整・交換)を明記。

校正・保守SLAを契約に含める

校正頻度、出張校正費用、交換周期、予備部材確保の責任を定義。

変更管理とファームウェア運用ルール

ファーム更新やプロファイル変更の承認フローと検証要件を規定する。

受入試験(Factory Acceptance Test / Site Acceptance Test)を明確化する

測定方法、測定器の型番や較正履歴、合否閾値を明記。

 

運用・保守(O&M)設計の実務詳細

日常監視と自己診断

センサや自己診断ログでスペクトル逸脱や輝度低下を早期発見する運用フローを整備。

定期校正・補正運用

分光センサによる現地校正(年次または使用条件に応じて半期)を計画し、必要に応じて補正係数を自動適用。

交換管理とトレーサビリティ

LEDモジュール、ドライバのロット管理、交換履歴を保管し、色味の一貫性を担保。

ファームウェア管理とローリング展開

ステージング→カナリア→全展開の手順でOTA、更新後の分光検査手順を必須化。

緊急対応と代替運用

重要工程での故障時は代替器具や手順(臨時照明・停止手順)を用意し、営業停止や品質影響を最小化する。

コスト構造とROIの見積り指針

初期投資要素

器具単価(高演色は高価)、分光測定器/センサ、PoC費、設計・施工費、予備部材コスト。

継続費用

校正サービス、部材交換、ファーム保守、運用担当者工数。

効果評価(定量化)

不良率低下による歩留まり改善、再作業削減、クレーム減少、販売増(色の信頼による購買増)、撮影後処理コストの削減などを定量化してROI評価を行う。

実務で直面する問題と具体的対策

問題:Raは高いが現場で「色が違って見える」

対策:R9やTM‑30、SPDを確認。被写体(素材)による光吸収特性に合わせスペクトルを微調整。

問題:導入後に色味が徐々に変化する

対策:分光フィードバックによる自動補正、校正頻度の見直し、モジュール交換。

問題:カメラ撮影結果と肉眼が一致しない

対策:撮影用プロファイルを作成し、照明とカメラのカラーマネジメント(ICCプロファイル・ホワイトバランス)を合わせる。

問題:コスト制約で全館導入できない

対策:重要ゾーンに高演色を集中させるハイブリッド設計、局所高演色+一般照明の組合せ。

ケース別設計パターン

製造検査ライン(高精度)

固定面光源、分光センサによる継続モニタ、ΔE自動判定、年次分光校正。

小売ディスプレイ(アパレル/家具)

商品毎に調整可能な照明プロファイル、R9強化のスポット配置、撮影用ライトゾーンの設置。

美術館・ギャラリー

高CRI+UV抑制、展示物別プロファイル、来場者視感フィードバックで照度最適化。

撮影スタジオ/放送

可変スペクトルライト、カメラ同期、色温度・スペクトルプリセット、撮影用キャリブレーション。

医療診断室

規格準拠の参照光源、校正証明によるトレーサビリティ、運用手順の標準化。

実務チェックリスト(導入前)

  1. 1. 目的とKPIを数値で定義(Ra/R9/TM‑30/ΔE/照度/均斉/UGR)する。
  2. 2. 参照スペクトルと合格基準を決め、提案時にSPDの提出を求める。
  3. 3. PoCの期間・測定ポイント・測定機器(校正証明付)を定義する。
  4. 4. 校正・保守・予備部材のSLAを契約に含める。
  5. 5. ファーム更新・プロファイル変更の承認フローと再試験要件を明記する。
  6. 6. 受入検査(分光データ、ΔE、照度、均斉、UGR)を実施し合格で受領する。
  7. 7. 運用マニュアルと教育計画、障害時代替運用を準備する。

 

まとめ(実務的提言)

高演色性照明(CRI90+)の導入は、製品のRa値を見るだけで完了する仕事ではありません。真に色再現性を担保するためには、SPDに基づく機器選定、多指標評価(R9/TM‑30/ΔE)、設置配光設計、分光によるPoC検証、定期校正とフィードバック補正、運用時の変更管理まで含めた体系的なプロジェクト管理が必要です。