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位相カット調光

(株)桜井屋灯具店では、下記事業を展開しています。
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位相カット調光とは?

位相カット調光(位相切断調光、phase‑cut dimming)とは、交流(AC)電源の正弦波の一部を意図的に切り落とす(カットする)ことで、負荷に供給される有効電力を連続的に変化させ、光源の明るさを制御する方式です。住宅の壁スイッチ型調光器や商業施設の簡易調光で広く用いられてきた技術で、回路が比較的単純で既存配線を活かしやすい点が大きな利点です。一方で、LED照明など電子ドライバを内蔵する近年の光源とは相性や互換性の課題を生じるため、導入・設計・PoCでの検証が不可欠です。

原理と種類

基本原理

位相カット調光は、交流波形の周期ごとに「導通開始点(位相角)」を遅らせることで、負荷に送る波形の有効値を制御する。導通開始を遅らせるほど供給される有効エネルギーは減少し、光源は暗くなる。

代表的な切断方式• 先端位相カット(Leading edge)

トライアック/サイリスタ等で波形の前半(立ち上がり側)をカットする方式。白熱灯や一部LEDで古くから用いられる。

後端位相カット(Trailing edge)

MOSFET等を用いて波形の後半をカットする方式。電子トランスやスイッチングドライバとの相性が良いことが多い。

波形と影響

切断により交流波形が歪み、高調波や瞬時電流ピークが生じる。こうした波形変化が光源の挙動(ちらつき、音、熱)や周辺機器への干渉に結びつく。

 

ハードウェア要素と電気的影響

主な素子

トライアック、サイリスタ、MOSFET、位相検出回路、スナバ回路やノイズフィルタ等。

電磁的・電気的影響

波形歪による高調波増加と電力品質低下(PFやTHDの悪化)。

スイッチングで生じる電圧

電流の急峻な変化がノイズやEMIの発生源となる。

突入電流やピーク電流がスイッチ素子

配線・器具に熱負荷を与える可能性がある。

保護設計の重要性

スナバ回路やEMCフィルタ、過熱保護、過電流保護を適切に設計しないと耐久性・安全性に影響する。

どの光源に適するか(互換性)

白熱電球・ハロゲンランプ

最も相性がよく、自然で滑らかな調光特性を示す。

電子トランス駆動の低電圧ハロゲン

高い互換性を持つがトランス種類による違いを確認する。

蛍光灯・HID等

基本的には位相カット非対応または複雑な挙動になるため、専用器具や専用調光方式を推奨。

LED照明

LED自体は直流で駆動されるため内部に整流・ドライバを持つ。位相カットがその入力波形を歪めると、ドライバが意図どおりに輝度を変えられず、ちらつき、最小輝度の制限、異音、早期故障などの問題を引き起こすことがある。メーカーが位相対応として明示したLED器具か、互換性リストで確認された組合せでのみ運用するのが実務上の鉄則。

実務上の長所と短所

長所

  • • 既設配線・壁スイッチを活かして低コストに調光導入できる。
  • • 部材コストが安くシンプルなため住宅リフォームや簡易演出に向く。
  • • 操作感が直感的で利用者に馴染みやすい。

短所

  • • LEDなど電子光源との互換性問題が頻出し、PoCが必須。
  • • 波形歪による高調波・EMC問題が発生し得る。
  • • フリッカやハム音、最小調光比の上昇、発熱増加など運用課題がある。
  • • ネットワーク制御や双方向監視(ヘルス情報供給)には不向き。

PoC/受入試験での必須検証項目

互換性テスト(必須)

実際に現場で使うスイッチ+ドライバ+器具の組合せで、ちらつき、点灯安定性、最小輝度、復帰動作を確認。

フリッカ測定

PstLM 等の指標で測定。撮影用途は高速カメラ評価を追加し映像上の影響を確認。

最小調光比・リニアリティ測定

下限輝度と階調の滑らかさ、分解能を実測して要件適合を確認。

色度・CCT安定性チェック

調光全域で色温度や色座標が変化しないか、分光器で追跡。

熱挙動試験

長時間運転・高負荷条件でのスイッチ素子・器具温度、保護トリップ挙動を確認。

EMC/電力品質評価

高調波やノイズが他設備に影響しないか確認。大型案件では電力側での解析を実施。

音響チェック

ハム音や振動がないか、静音性が求められる領域では複数位置で聴取検査。

フェイルセーフ挙動確認

スイッチ故障や停電復帰時の灯具挙動を試験し安全性を確認。

最低でも現場条件を再現した数週間〜数ヶ月のPoCを推奨する。

設計・導入時の実務配慮

  • • 器具側の位相対応確認を必須化する。メーカー推奨調光器リストがある場合はそれに従う。
  • • 配線長や電圧降下、接地方式を設計段階で評価し、ノイズの影響を低減する配線計画を行う。
  • • 先端/後端の切断方式の選定は負荷や現地要求(音・ちらつき)に基づき決定する。一般に電子ドライバ主流環境では後端の方が互換性が良いことが多い。
  • • 大規模導入では電力品質(THD、PF)と高調波対策を電気設備担当と協整して行う。必要ならラインフィルタや調光器の高調波抑制オプションを採用する。
  • • 保守運用面では互換リスト、交換手順、推奨代替品を文書化し現場に周知する。

よくあるトラブルと対処フロー

ちらつき/点滅

  • • 確認:器具側が位相非対応、最小負荷未満、接地不良。
  • • 対処:推奨互換機へ交換、負荷調整(並列負荷の追加は最終手段)、配線・接地改善、別方式(DALI/PWM)への切替。

ハム音/振動

  • • 確認:トライアック発振、共振、磁気トランスの影響。
  • • 対処:スイッチ交換(高品質タイプ)、ダンピング、トランス遮断や交換。

スイッチ周辺や器具発熱

  • • 確認:突入電流や連続高負荷。
  • • 対処:放熱改善、負荷分散、耐熱仕様の器具やスイッチへ交換。

電力側での高調波問題

  • • 確認:KPI監視でTHD上昇、他機器誤動作。
  • • 対処:ラインフィルタ追加、分電盤内高調波対策、設備管理者と対応協議。

発注時チェックリストと契約条項(実務)

  1. 1. 使用用途と要求KPIを明確化(最小調光比、PstLM閾値、ΔE許容、音基準)。
  2. 2. 器具の「位相対応」明記とメーカー推奨調光器リストの提出を要求。
  3. 3. PoCの範囲(現地機器混在環境での試験)、試験項目、期間、合否基準を契約に明記。
  4. 4. EMC・高調波の合格基準と測定方法を規定する。
  5. 5. 保守・交換・SLA(故障対応時間、代替品供給)を定義する。
  6. 6. 不適合時の再調整・交換・費用負担の所在を明示する。

代替方式との比較と選択指針

位相カットを選ぶ理由

既設の壁スイッチを活用したい、低コストで簡易な調光を実現したい住宅・小規模店舗向け。

位相カットを避けるべき場面

色再現性や低フリッカが厳格に求められる撮影・医療・計測用途や、ネットワーク監視・双方向制御が必要な大規模商業ビルではDALI、0–10V、PWM高分解能、DMXなどを優先検討。

ハイブリッド運用案

ローカル操作は位相スイッチで、管理・モニタリングや細やかな色制御はDALIやネットワーク制御で担うフル/ハーフ分担設計が現場遷移コストを抑える実務的解。

 

将来動向とまとめ

ドライバ側の適応進化

LEDドライバは位相切断に対する補償回路やフィルタを内蔵する方向で進化しており、互換性は改善傾向。ただし完全互換は製品差によるため実測確認が必須。

規格化と互換リストの整備

メーカーが推奨する「位相対応リスト」や相性情報が発注基準としてより重要になる。互換性検証を契約条件とする事例が増加。

ハイブリッド化の進行

 
位相カットの利便性を活かしながら、DALIやWi‑Fi/BLE等のスマート制御を組合せる設計が主流化すると予想される。

まとめ

位相カット調光は既設活用と低コスト導入で強みを持つ一方、LED時代には互換性・フリッカ・電力品質などの課題を伴う方式です。導入時は「器具の位相対応確認」「現地PoCでの互換性・フリッカ・熱・音の検証」「受入基準の数値化」「保守体制の整備」を必須にしてください。