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位相反転調光

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位相反転調光とは?

位相反転調光は、交流(AC)電源の波形に対して位相の取り扱いを工夫し、スイッチングのタイミングを反転させることで照明の明るさを制御する調光方式です。従来の位相カット(前半波カット/後半波カット)と同じく波形の一部を切り取って実効電圧を下げる原理を持ちながら、位相の反転やタイミング制御を取り入れることで、LED照明などの電子負荷に対する互換性を高め、ちらつきや音(うなり)を抑えることを目的とした技術的アプローチです。本稿では、位相反転調光の基本原理から実務的な導入ポイント、トラブル対策、選定基準、応用例までを詳しく解説します。

位相反転調光の基本原理

位相反転調光は、交流波形の「位相」を基準にしてスイッチを入切することで平均電力を制御します。交流は正弦波で供給されますが、調光器はその波形のある時点でスイッチをONにし、ある時点でOFFにすることで波形の一部を切り落とします。これにより負荷に供給される平均電力が変わり、結果として光源の明るさが変化します。

位相反転調光では、単に前半波や後半波を切るだけでなく、位相の極性やON/OFFのタイミングを反転させる制御を行います。例えば、ある周期では通常の位相でスイッチングし、次の周期では位相を反転してスイッチングする、といった制御を行うことで、波形の対称性や過渡応答を改善し、負荷側(特に電子ドライバーを内蔵するLED)の挙動を安定化させることができます。

使用されるスイッチ素子はトライアック、サイリスタ、MOSFET、IGBTなどがあり、制御回路にはアナログ回路やマイコン(マイクロコントローラ)が用いられます。位相反転の実装は単純なハードウェアだけでなく、ソフトウェア的にタイミングを変えることで柔軟に最適化できる点が特徴です。

なぜ位相反転が有効なのか

従来の位相カット方式は白熱電球のような抵抗性負荷に対しては非常に安定して機能しましたが、LEDのような電子回路を内蔵する負荷では問題が生じやすくなりました。LEDは整流・平滑・定電流制御を行うドライバー回路を持つため、波形の急激な変化や特定の周波数成分に敏感です。その結果、以下のような問題が発生することがあります。

  • • ちらつき(フリッカー):スイッチングのタイミングや波形の欠損が原因で、光が周期的に変動して見える現象。長時間の露出は視覚疲労や不快感を引き起こす可能性があります。
  • • うなり音(ハム音):電流の変動がトランスやコイル、コンデンサなどの部品を振動させ、音として聞こえる現象。特に低周波成分が強い場合に顕著です。
  • • 点灯不良や不安定動作:最小負荷以下での不安定点灯や、特定の調光域でのちらつきなどが発生することがあります。

位相反転調光は、これらの問題を軽減するために、スイッチングの位相を周期的に反転させたり、位相の立ち上がり/立ち下がりを滑らかにする制御を行ったりすることで、ドライバー回路に与える過渡的なストレスを分散させ、結果としてちらつきや音を抑える効果を狙います。さらに、デジタル制御を組み合わせることで、負荷の種類や接続台数に応じた最適なスイッチングパターンを選択できるようになります。

他の調光方式との比較

調光方式は用途や求められる性能によって使い分けられます。代表的な方式と位相反転調光の違いを整理します。

PWM(パルス幅変調)

PWMは高周波でON/OFFを繰り返し、パルス幅を変えることで平均電力を制御します。LEDに対しては非常に相性が良く、色再現性や調光の滑らかさが高いのが特徴です。ただし、専用のドライバーや回路が必要で、既存の配線を大きく変えずに導入するのは難しい場合があります。

0–10V / 1–10V

これらはアナログの低電圧信号で調光指令を送る方式で、商業施設やオフィスで広く使われています。集中制御や複数ゾーンの管理が容易ですが、信号線の敷設が必要です。

DALI(デジタル照明制御)

DALIはデジタル通信による調光・制御方式で、個別制御やシーン管理、双方向通信が可能です。高機能ですが導入コストや配線の複雑さが増します。

位相カット(従来)

前半波カットや後半波カットは配線改修が不要で導入コストが低い一方、LEDとの互換性に課題がありました。

位相反転調光の位置づけ

位相反転調光は、既存の位相制御の利便性(配線を変えずに導入できる点)を保ちながら、LEDなど電子負荷との互換性を高めることを目的とします。コストと互換性のバランスを重視する現場、例えば住宅のリフォームや既存施設のLED化などで有力な選択肢となります。

LED照明との相性と実務上の注意点

LED照明はメーカーやモデルごとにドライバー回路の設計が異なるため、位相反転調光との相性も一律ではありません。導入時に注意すべきポイントを具体的に挙げます。

調光対応表示の確認

LED器具や電球に「調光対応」「位相制御対応」などの表示があるかを確認してください。表示がない製品を調光器に接続すると、ちらつきや点灯不良の原因になります。

最小負荷と最大接続台数

調光器には最小負荷(調光器が安定して動作するために必要な負荷)や最大接続台数(合計ワット数や電流)があります。LEDは消費電力が小さいため、最小負荷未満になりやすく、その場合は点灯不良やちらつきが発生します。必要に応じてダミー負荷を追加する、あるいは調光器を交換するなどの対策が必要です。

試験点灯の実施

本格導入前に代表的な器具で試験点灯を行い、調光範囲、ちらつき、音、色味の変化などを確認してください。特に複数台を並列接続する場合は、接続台数を増やした状態での確認が重要です。

配線と接続の品質

接続不良や接触抵抗があると、局所的な発熱や不安定動作の原因になります。配線は適切な太さで、接続は確実に行い、必要ならば端子や圧着の品質を見直してください。

環境要因

温度や湿度、電源品質(電圧変動やノイズ)もLEDの挙動に影響します。特に古い建物や長距離配線がある場合は電源品質の確認を行うと良いでしょう。

調光器の選び方と設置のポイント

位相反転調光を導入する際の具体的な選定基準と設置手順を示します。

用途と求める調光性能を明確にする

住宅、店舗、オフィス、劇場など用途によって求められる調光精度や制御機能が異なります。色温度の変化を抑えたいのか、シーン制御を重視するのかを明確にしてください。

調光器の仕様確認

  • • 位相反転対応であること。
  • • 最小負荷・最大負荷の範囲が設置予定の器具に合致していること。
  • • 接続方式(単相/三相)や配線条件が現場に適合していること。
  • • 必要に応じてマイクロコントローラ制御や外部信号入力(例:スイッチ、センサ連動)が可能かを確認する。

器具の適合性確認

LED器具のメーカーが提供する適合表や推奨調光器の情報を確認し、可能ならば同一メーカーの組合せを選ぶとトラブルが少なくなります。

試験導入

小規模で試験導入を行い、実際の使用環境での挙動を確認します。試験では明るさの連続性、ちらつき、音、色味の変化、最暗部での安定性などをチェックします。

専門家による施工

電気工事は資格が必要な作業です。配線変更や調光器の交換は電気工事士などの専門家に依頼し、安全基準や法令を遵守してください。

トラブルシューティングと対策

導入後に発生しやすい問題とその対処法を整理します。

ちらつきが発生する場合

  • • 原因の切り分け:調光器単体、器具単体、配線のいずれが原因かを切り分けます。別の調光器や別の器具で試すと原因特定が容易です。
  • • 最小負荷の確認:最小負荷未満であれば負荷を増やす(ダミー抵抗の追加など)か、別の調光器に変更します。
  • • フィルタやスナバ回路の追加:ノイズや高周波成分が原因の場合、フィルタやスナバ回路で改善することがあります。

うなり音がする場合

  • • 音源の特定:音が調光器由来か器具由来かを確認します。調光器のスイッチング周波数や器具内部のコイル・コンデンサの共振が原因となることが多いです。
  • • 周波数変更や制御パターンの変更:調光器の設定でスイッチング周波数を変えられる場合は調整してみます。位相反転のパターンを変更することで改善することもあります。

点灯しない/不安定な場合

  • • 配線・接続の確認:接続不良や断線、接触抵抗がないかを確認します。
  • • 電源品質の確認:電圧低下やノイズがある場合は電源側の対策が必要です。
  • • 器具の故障確認:器具自体の不具合の可能性もあるため、別の電源や調光器で点灯確認を行います。

実際の導入事例と応用シーン

位相反転調光はさまざまな場面で活用されています。以下は代表的な応用例です。

住宅リフォームでのLED化

既存のスイッチ配線を活かして白熱灯からLEDへ置換する際、位相反転調光を採用することで配線工事を最小限に抑えつつ、調光機能を維持できます。特に既存の壁スイッチを活かしたいケースで有効です。

小規模店舗や飲食店

雰囲気作りのために調光を多用する店舗では、コストを抑えつつLEDのちらつきを抑えるために位相反転調光が選ばれることがあります。照明の色味や明るさの変化を滑らかにすることで顧客満足度を高められます。

オフィスや会議室

会議室の照明でプレゼンテーション時に明るさを細かく調整したい場合、既存配線を活かしながら安定した調光を実現する手段として採用されることがあります。ただし、集中管理やシーン制御が必要な場合はDALIなどの方式と比較検討が必要です。

舞台照明や演出用途

高精度な調光が求められる舞台照明ではPWMや専用制御が主流ですが、補助的な照明や既存設備の活用という観点で位相反転調光が使われることもあります。演出上のちらつきや色変化に敏感な用途では事前の入念な試験が不可欠です。

よくある質問(FAQ)

Q:位相反転調光はすべてのLEDに使えますか?

A:いいえ。LEDのドライバー設計や器具の仕様によっては相性が悪く、ちらつきや点灯不良が発生することがあります。必ずメーカーの適合情報を確認し、試験点灯を行ってください。

Q:既存の調光器を位相反転対応に交換するだけで済みますか?

A:多くの場合は交換で対応できますが、配線や接続台数、最小負荷などの条件を満たしているか確認する必要があります。必要ならば配線の見直しやダミー負荷の追加が必要です。

Q:うなり音が気になる場合の簡単な対処法は?

A:まずは音源の切り分け(調光器か器具か)を行い、調光器の設定で周波数を変更できる場合は調整してみてください。改善しない場合は別の調光器や器具の組合せを試すことをおすすめします。

Q:商業施設ではどの方式を選ぶべきですか?

A:商業施設では拡張性や集中管理が重要な場合が多く、DALIや0–10Vが適することが多いです。ただし、既存配線を活かしてコストを抑えたい場合は位相反転調光が有効な選択肢となります。用途と将来の運用計画を踏まえて選定してください。

まとめ

位相反転調光は、既存の位相制御の利便性を保ちながら、位相の反転や制御アルゴリズムの工夫によってLEDなど電子負荷との互換性を高め、ちらつきやうなり音を抑えることを目指した実用的な調光方式です。導入にあたっては以下の点を重視してください。

  • • 器具と調光器の適合性を必ず確認すること。
  • • 最小負荷・最大接続台数などの仕様を守ること。
  • • 本格導入前に試験点灯を行い、ちらつき・音・調光範囲を確認すること。
  • • 電気工事は資格者に依頼し、安全基準を遵守すること。

位相反転調光は万能ではありませんが、適切な設計と機器選定を行えば、コスト効率よく快適な調光環境を実現できます。まずは小規模な試験導入から始め、実際の使用感を確認しながら段階的に拡張することをおすすめします。