GLOSSARY

光束維持率

(株)桜井屋灯具店では、下記事業を展開しています。
・オリジナルプロダクトの企画・設計・製作・販売
・特注照明の設計・製作
・他社既製品照明の卸販売・2次加工
・アンティーク照明の修理・復元
・輸入照明の日本仕様への組み替え及びPSE適合加工
・照明計画設計

・プロダクト一覧
https://sakuraiya-touguten.com/products
・特注照明について
https://sakuraiya-touguten.com/custom-made
・会社概要
https://sakuraiya-touguten.com/about
詳しくはお問い合わせフォームよりお問い合わせください。

CONTACT US

光束維持率とは?

光束維持率は、照明が点灯開始時に放つ光束(ルーメン)を100%としたとき、使用経過後にどれだけの光束を維持しているかを示す割合です。特にLED照明における「明るさの劣化」を定量化する主要指標であり、寿命評価、交換時期の判断、照明設計での保守係数設定、運用コスト試算に直結します。一般的には「L70」「L80」などで表記され、たとえば「L70 50,000時間」は初期光束の70%に低下するまでに50,000時間かかることを意味します。

基本概念と用語整理

光束と光束維持率の違い

  • • 光束(Lumen):光源が放射する光の総量を示す物理量で、器具の明るさの基本指標です。
  • • 光束維持率(Lumen Maintenance):点灯直後を100%としたときの経時的な光束の割合を示す相対値です。

 

Lx 表記の意味

  • • L70、L80、L90:初期光束のx%に低下するまでの時間を示す指標で、LED製品の寿命評価に広く用いられます。たとえば「L70 = 50,000時間」は初期光束の70%に達するまで50,000時間かかることを表します。
  • • Lumen Depreciation(ルーメン減衰):光束が減少する現象そのものを指し、光束維持率はその逆数的評価と考えられます。

 

関連規格と試験名称(概念)

  • • LM‑80:LEDパッケージやモジュール、ドライバの光束維持試験として国際的に参照される手法です。
  • • TM‑21:LM‑80の実測データを基に寿命を外挿するための手法です。これらはJISや各国の照明規格でも参照されることが多く、製品評価の基礎となります。

測定方法と評価プロセス 実務的解説

測定の基本フロー

  1. 1. 試験条件の設定:ケース温度(Tc)、駆動電流、点灯モード(連続点灯など)を規定します。
  2. 2. 長時間点灯試験:数千時間にわたり定常点灯し、一定間隔で全光束を測定します。
  3. 3. データ記録と解析:経時的な光束値をプロットして光束維持率を算出します。
  4. 4. 寿命推定(外挿):必要に応じてTM‑21などの手法で試験時間を超える寿命を推定します。

 

重要な測定パラメータ

  • • ケース温度(Tc):LEDの動作温度で、放熱条件により光束低下速度が大きく変わるため、試験時のTcは必ず確認します。
  • • 駆動電流(I):高電流駆動は光束低下を早めるため、定格電流と試験電流の整合が重要です。
  • • 試験時間:短時間データを長期に外挿すると誤差が大きくなるため、十分な試験時間が望まれます。

 

TM‑21による外挿の注意点

TM‑21は実測データを基にした外挿手法ですが、外挿はあくまで推定であり、外挿倍率や試験条件の妥当性を慎重に評価する必要があります。実使用環境が試験条件と異なる場合、実寿命は大きく変わる可能性があります。

光束維持率に影響を与える要因 詳細

熱(放熱)

最も影響が大きい要因です。LEDは高温環境で光束低下が加速するため、器具設計における放熱フィン、熱伝導パス、空冷や自然対流の確保が寿命維持に直結します。

駆動条件

高電流駆動や過電圧は光束低下を早めます。定格電流での運用と適切なドライバ選定が重要です。

周囲環境

高湿度、腐食性ガス、塩害などは光学部材や接合部に影響を与え、光束低下や色度変化を引き起こすことがあります。設置環境に応じた器具選定が必要です。

点灯サイクル

頻繁なオン/オフは熱サイクルを増やし、長期的な劣化に影響する場合があります。用途に応じた点灯戦略(タイマーやセンサ連動)を設計することが重要です。

光学部材の劣化

レンズや拡散板の黄変や曇りは光束低下の一因です。材料選定とUV耐性の確認、定期的な清掃や交換計画が有効です。

設計と運用への実務的インパクト

保守係数の設定

設計段階では保守係数(MF: Maintenance Factor)を設定して初期設計照度を決定します。光束維持率が低い製品を採用すると高い保守係数が必要になり、初期投資や運用設計に影響します。

交換計画とメンテナンススケジュール

光束維持率データを基に交換時期(例:L70到達時)を見積もり、段階的交換やゾーン別交換計画を立てることで運用コストを平準化できます。

照度管理とモニタリング

定期的な照度測定(ルクスメーター)や照度センサを用いたモニタリングで実際の劣化を把握し、設計値との乖離を早期に検出します。

事例的な数値例(概算)

あるオフィスでLED器具を導入し、設計照度を維持するために保守係数を0.8と設定した場合、初期設計照度は目標照度を次の式で割った値に設定する必要があります。

\frac{\text{目標照度}}{0.8}

たとえば目標照度が500 lxなら初期設計は \(\displaystyle \frac{500}{0.8} = 625\) lx に相当する初期光束が必要です。

製品選定チェックリストと比較ポイント

製品選定時には次の項目を必ず確認してください。光束維持率データ(Lx)とその試験条件であるケース温度(Tc)、駆動電流、試験時間の明示、LM‑80相当の試験データの有無、外挿方法(TM‑21)と外挿上限の明示、器具の放熱設計(Tc測定ポイントや放熱材仕様)、光学部材の耐候性(UV耐性や黄変対策)、保証条件と保守サポート(保証期間や交換条件)、および実使用環境での適合性(屋外/屋内、温度範囲、湿度、塩害など)を比較してください。製品仕様書や試験報告書を参照して、同一条件での比較を行うことが重要です。

トラブル事例と対策 将来の動向

よくあるトラブルと対処法

  • • 想定より早い光束低下:設置環境の通気や放熱を確認し、器具のTcを測定。必要なら放熱改善や器具交換を検討します。
  • • 色温度や色度の変化:色度変化が許容範囲か確認し、重要空間では色安定性の高い製品を選定します。
  • • 局所的な黄変や曇り:光学部材の材質見直しや定期清掃計画の導入で対処します。

 

将来の技術トレンド 実務観点

  • • 高効率LEDと材料改善により光束維持率はさらに向上し、同等寿命でより高い初期光束が期待されます。
  • • IoTとモニタリングの普及により、照度や温度をリアルタイム監視して劣化を早期検出し、予防保守を行う運用が一般化します。
  • • AIによる最適運用が進み、使用パターンを学習して点灯スケジュールや輝度を自動最適化し、劣化を抑制しつつ省エネを最大化する技術が普及する見込みです。
  • • 規格と試験手法も進化し、LM‑80/TM‑21に続く評価手法や実使用環境をより反映した試験プロトコルの整備が進む可能性があります。

 

まとめと推奨アクション

光束維持率は照明の長期的な明るさの信頼性を示す最重要指標であり、設計・選定・運用のすべての段階で中心的に扱うべき項目です。実務的には次を推奨します。

  1. 1. 製品選定時にLM‑80相当の試験データと試験条件(Tc、電流)を必ず確認する。
  2. 2. 器具の放熱設計を重視し、設置環境でのTc評価を行う。
  3. 3. 保守係数を光束維持率に基づいて設定し、初期設計照度を決定する。
  4. 4. 定期的な照度測定とモニタリングを導入し、実使用での劣化を把握する。
  5. 5. パイロット導入で実環境下の挙動を確認してから本格展開する。

 

これらを実行することで視認性と安全性を確保しつつ、照明投資の費用対効果を最大化できます。光束維持率は単なる技術指標ではなく、運用コストと利用者満足度に直結する実務上の設計指針です。導入検討の際はデータに基づく比較と現場評価を重ね、長期的な視点で最適な選択をしてください。